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当院の股関節MIS(最小侵襲手術:Minimally Invasive Surgery)

最近、人工股関節全置換術においてMIS(Minimally Invasive Surgery)という言葉が流行っているようです。その意味は最小侵襲手術ということですが、はたして本当にそうなのか疑問をもっている股関節外科医は多いと思われます。

そもそも手術というのは安全に、正確に目的を達成することが何よりも大切なはずです。しかも人工関節手術の真価は10年、20年あるいはそれ以上の長きにわたる長期成績にあります。

私の考える最小侵襲とは筋肉、軟部組織の損傷、挫滅および出血量・合併症が少なく手術時間も短いことであり、決して皮膚切開が小さいことではないということです。MIS(6~8cm程度の皮膚切開)の報告をみても手術時間、出血量、合併症のどれをとってもとても最小侵襲とは思えません。逆に感染や脱臼・骨折などの合併症が多くなっているようです。皮膚切開が小さすぎると、無理やり皮膚を引っ張ったりするため裂創や挫滅創を作ってしまい、メスで切った少し大きめの切開創より治癒が悪くなるのは当然であります。小さな皮膚切開では手術に必要な視野を得るのが困難となるのは当然で、それを補うために特殊なレトラクター(皮膚や筋肉をよけるもの)を用いたりします。手術の道具を工夫するのはよいことですが、“MISでもできるように人工関節のデザインを変更する”などという考え方は大変危険な思想であり本末転倒はなはだしいという感じです。人工関節手術において最も大切なことは安全に、理想的な位置に確実に設置することであり、そのためにはある程度の大きさの皮膚切開が必要です。中身(人工関節の位置、角度、設置具合)が同じなら傷は小さいほうが良いのは当然ですが、その中身が同じというところがブラックボックスであり、MIS症例の術後XPでは理想的な位置とは程遠いものも散見されます。どんな位置に設置されても術後には痛みがとれて非常に楽になるのが人工関節でありますが、理想的な位置に設置されたものとそうでないものとでは、長期成績でのゆるみの出現率や再置換率にはかなり差が出ると思われます。もちろん皮膚切開をむやみに大きくすることには反対です。長期成績を犠牲にすることなく、合併症を増やすことがない範囲内で皮膚切開を小さくしていくことは当然のことですし、今までもそうしてきましたが、小さすぎる皮膚切開は“悪”であるということです。

繰り返しになりますが、手術には優先順位があるということです。まず第一に安全であること。第二に長期成績が安定していることであり、切開の大きさはその後にランクされるべき枝葉末節の事柄であるということです。ところがMISをアドバルーンにあげて宣伝した場合、皮膚切開が小さいということが第一の優先順位になり、安全性や長期成績が二の次になりかねないということが危惧されるわけです。

次に入院期間に関してですが、MISだと皮膚・筋・腱切離が少ないため早期リハビリが可能で入院期間が短いと強調されています。しかし、MISでいけるという患者さんは手術が比較的簡単な場合(変形も少なく、可動域もそれほど悪くない)ですので従来法でも早期リハビリは可能で入院期間は大差ないと思われます(当院にて従来法で施行した患者さんの多くは手術翌日より荷重歩行しています)。患者さんには傷しか見えませんので心理的な要素が大きいと思われます。一方MISではとても手術できない重症例(脱臼位や変形が強く股関節の動きが殆どない場合)では十分なリハビリが必要ですので当然入院期間が長くなります。

最後に関西医大の飯田寛和教授が人工関節に関する医学雑誌のなかで、整形外科医に向けて鳴らした警鐘の言葉を引用させていただきます。「現在のMISに対する熱気には、他の部分でのセールスポイントが枯渇してきたメーカーの宣伝や、施設基準設定(年間の人工関節の手術数が一定以上でないと手術点数が一部カットされる)などの圧力から症例集めのアドバルーンとなるといった背景を強く感じます。理論的に小切開、小侵襲が良くないはずはないわけですが、従来の術式に習熟していない術者が行き過ぎた小切開手術へなびきすぎると様々な弊害が生じる可能性があります。」(整形・災害外科 Vol.47 No.13 2004 から一部抜粋)

要するに、長期成績を犠牲にすることなく、合併症も少ないという大原則が守られて初めてMISという手技が成り立つのですが、現時点でははなはだ疑問であるといわざるを得ないということです。

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